「できるだけ薬に依存した治療を減らし、症状をコントロールする」
「皮膚病とうまく付き合っていく」
ワンちゃん猫ちゃんの皮膚について、どんな印象をお持ちですか?
「毛が生えているし、硬くて丈夫そう」というのが、多くの人が抱く犬猫の皮膚のイメージです。
しかし、実はワンちゃん猫ちゃんの皮膚の厚みは人間の半分以下。人間よりもデリケートです。
さらにワンちゃん猫ちゃんは異常を感じる部分をしつこく舐めるため、あっという間に悪化してしまうことも多く、悪化すればそれだけ治療にも時間がかかってしまいます。
皮膚は、飼主様がわずかな異変にも気付くことができる数少ない部位です。
「毛が抜けている」「いつもより赤いかも?」など、少しでも異常を感じたら早めに受診されることをお勧めします。
花粉やダニなどの環境アレルゲンが関与した、特徴的な症状と痒みを伴う⽪膚炎です。
⾷物中のタンパク質に対するアレルギーです。⽪膚炎だけでなく、消化器などに症状が出ることもあります。
ノミに吸血されることで起こる、ノミの唾液に対するアレルギーです。
常在菌である⻩⾊ブドウ球菌が原因となることが多いですが、その他の細菌による⽪膚炎もあります。
マラセチアという酵⺟菌によって引き起こされる、ベタベタした脂っぽい⽪膚炎が特徴です。
アレルギーが関与しているとも⾔われています。
⽪膚⽷状菌という真菌が⽪膚に感染することで発症します。
⼈間にも容易に感染するため注意が必要です。
ニキビダニ(アカラス)という寄⽣⾍が原因となる⽪膚炎です。ニキビダニは正常な⽝猫の⽪膚に存在し通常は無害ですが、体⼒・免疫⼒の低下、基礎疾患の存在などにより発症すると考えられています。
ヒゼンダニが⽪膚の⾓質層に寄⽣して起こる感染症で、激しい痒みが特徴です。
ホルモン異常、⾃⼰免疫疾患、腫瘍など、他にも様々な原因が存在します。
原因により治療⽅針が⼤きく異なるため、原因を特定し、
症状を引き起こしている原因を特定し、それに合わせた治療を⾏っていくことが⼤切です。
問診:症状・発症部位・年齢・ライフスタイル(飼育環境や⾷⽣活)・経過・痒みの強さなど
基本的な検査
必要に応じて追加検査
治療
ご家庭でのケアに関する指導
皮膚病は、診察で病変を観察するだけでは分かりえないこと(これまでの経過や生活環境など)が診断のための重要なヒントになります。そのため、丁寧な問診が皮膚科治療には不可欠です。時間をかけて飼主様に確認させていただき、検査と合わせて原因を検討していきます。
基本的な検査での原因特定が困難な場合や治療効果が思わしくない場合などは、ご相談させていただいた上で追加検査に進むこともあります。
皮膚病の原因は多岐に渡るため、当日の診察だけで確定診断するのが困難なケースが多々あります。少しでも早い診断につなげるために、飼主様からペットの日々の情報を頂く「問診」は非常に大切なポイントになります。
当院の治療方針として、「できるだけ薬に依存した治療を減らし、動物への副作用を軽減した上で症状をコントロールする」ことを目標にしています。しかし、原因や症状によっては長期間の投薬を避けられないケースもあります。
また、アレルギー疾患などの慢性的な皮膚病の場合、その病気と「うまく付き合っていく」ことが大切です。完全に痒みや症状を抑えることが目標ではありません。人のアトピー性皮膚炎のように、「多少の症状はあっても動物がストレスなく生活できる、飼主様もあまり気にならないレベルにコントロールすること」が目標であることを、飼主様にまずご理解いただくことも大切です。
そして、「皮膚病の治療≠単に痒みを抑えること」、これも必ずご理解いただかなければなりません。
一般的な検査と治療です。(当院では実施していないものもあります。)
スクレーピング検査
鋭匙(えいひ)という器具で⽪膚の表⾯を削り取り、上⽪や鱗屑(フケ)、被⽑などを顕微鏡で観察します。
外部寄⽣⾍の診断に⽤います。
スコッチテスト
セロハンテープを⽪膚に粘着させ、それを簡易染⾊し、顕微鏡で観察します。
外部寄⽣⾍、細菌、酵⺟様真菌の診断に⽤います。
ウッド灯検査
ウッド灯(紫外線照射装置)を用いた皮膚糸状菌の検査です。紫外線を照射すると、皮膚糸状菌の代謝産物が発光し、糸状菌を検出することができます。
真菌培養と異なりその場での検出が可能ですが、M.canis以外の皮膚糸状菌は発光しないため、「ウッド灯検査が陰性=皮膚糸状菌陰性」とは確定できません。ただし、犬猫に感染する皮膚糸状菌の多くはM.canisであるため、ペットに負担をかけないスクリーニングとして有用な検査です。
真菌培養検査
患部の被毛などを特殊な培地(黄色)に静置し培養すると、多くの皮膚糸状菌は培養初期に培地内の蛋白を利用するため、アルカリ性の代謝産物により培地が赤く染まります。
皮膚糸状菌の確定診断に用いますが、結果が出るまでに最大二週間程度の日数が必要です。
抗生物質感受性検査
細菌性皮膚炎(膿皮症)が認められた場合、原因菌に対して効果のある抗生物質/抗菌剤を特定するための試験です。患部を専用の綿棒で拭い、外部検査機関に委託します。
アレルギー検査
環境や食物中に存在する原因物質(アレルゲン)のうち、どのアレルゲンにどのくらい感作されているかを特定するための検査です。アレルギー性疾患診断の補助的検査となります。
血液を採取し、専門の検査機関に検査を委託します。
細胞診
病変部の細胞を採取し、簡易染色にて細胞の構造や状態、種類などを確認する検査です。(外部検査機関の病理専門医による診断です。)
皮膚生検
皮膚の一部を採取(切除)し、病理組織学検査を行います。結節性、潰瘍性、腫瘍性病変などに有用です。(外部検査機関の病理専門医による診断です。)
除去食試験
食物アレルギーの確定診断試験です。種類を制限したタンパク質の食事を与え、徐々にタンパク質の種類を増やして反応を確認します。確定診断までに比較的長い期間が必要となります。
血液検査
内分泌疾患に関連する皮膚病を疑う場合、ホルモン検査などの血液検査を行うことがあります。
その他
腫瘍性病変などの場合は画像診断を行うこともあります。
内用薬(抗菌剤、抗真菌剤、殺ダニ剤)
感染の原因菌や外部寄生虫をコントロールするために使用します。二次的な感染を防ぐ目的で使用することもあります。
内用薬(抗炎症剤、抗掻痒剤など)
症状緩和、痒みの軽減などを目的に使用します。
以前は副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)の使用が中心でしたが、最近では副作用の少ない抗掻痒剤の使用や、予防目的で抗ヒスタミン剤を使用するなど、ステロイドにできるだけ頼らない治療も増えてきました。
内用薬(免疫抑制剤)
アレルギーは「過剰な免疫反応」なので、その反応を抑制して症状を緩和させます。やや高価な薬で、即効性はありません。
外用薬(抗菌剤、抗炎症剤、抗掻痒剤)
多くの皮膚用外用薬は抗菌剤、抗真菌剤、抗炎症剤の合剤です。局所的な症状の場合に使用します。
内用薬に比べて投薬は簡単ですが、舐めてしまって薬の効果が得られない、塗布した部位にしか効果がないなどの弱点があります。
殺ノミ剤、殺ダニ剤(内用/外用)
最近では滴下タイプやおやつタイプが主流となり、簡単に投薬できるようになりました。投薬後に寄生虫が吸血すると、薬の効果で死滅します。予防的に使用することが多い薬です。
市販でも似たような滴下タイプが比較的安価で販売されていますが、効果が低く薬の持続期間もかなり短いため、動物病院処方のものを使用するようにしましょう。
注射薬(インターフェロン)
免疫物質の調節をすることで症状を緩和させます。犬アトピー性皮膚炎に有効で、体質改善的な意味合いがあります。通院での注射による治療になります。
シャンプー療法(薬浴)
皮膚疾患においてスキンケアは非常に重要です。薬と異なり副作用がなく、自宅でケアができるのが長所です。感染性の場合は殺菌・消毒系のシャンプーを使用します。また、保湿成分により皮膚バリア機能を改善する目的でも使用します。
効果を最大限発揮するためにはシャンプーの使い方(回数や実施方法)が重要なポイントとなります。当院ではシャンプーをお渡しする際に使い方の説明も必ず行っています。
保湿剤
保湿剤には様々な種類がありますが、最も効果が高いとされているのがセラミドです。乾燥肌の改善、皮膚バリア機能の改善などを目的として使用します。たかが保湿、されど保湿。非常に重要な治療の一つです。
食事
食物アレルギー対策として使用します。除去食試験やアレルギー検査で得られた特定のアレルゲンを含まない食事を与えることで、症状の緩和を目指します。また、炎症のコントロールに関わる栄養素である脂肪酸の調整をしている食事も多いので、食物アレルギーだけでなく他のアレルギーにも有効なことも多いです。
市販の「低アレルギー食」には注意が必要です。アレルゲンはその動物によって異なりますので、全ての動物に対して低アレルギーの食事などは存在しません。
サプリメント
皮膚疾患の代表的なサプリメントは脂肪酸製剤です。細胞の周りにある細胞膜は脂肪でできており、その組成をサプリメントで調整することで炎症促進物質の産生を抑えることができます。ただし、効果に対して過度な期待はできません。その他にも皮膚用サプリメントが市販されていますが、科学的根拠のないものも多いです。
減感作療法
アレルギー検査で得られた結果をもとに、特定されたアレルゲンを体内に注射します。少量からスタートし、その物質に体を慣れさせる治療です。治療にはそれなりの費用と時間がかかります。治療開始時は週1回の注射、最終的には月1回から年1回程度の注射を継続します。
その他
腫瘍などの場合、摘出手術が必要になる場合もあります。また、内分泌疾患や自己免疫疾患などによる皮膚病の場合は元疾患の治療が必要です。
「皮膚病だからステロイドがやめられない」と諦められていませんか?まだ他にもできることがあるかもしれません。
当院では、継続した治療やケアが必要と判断した場合は、飼主様としっかり相談させていただいた上で治療方針を決めるよう心がけております。皮膚病でお困りのことがございましたら、些細なことでもお気軽にご相談ください。
最後に、アレルギー疾患などの慢性的な皮膚病の場合は飼主様の協力が必要不可欠です。
皮膚病の治療は、「ただ痒みをとること」が目的ではありません。その原因に対してできる治療を、獣医師と信頼関係を築き、お互いに協力し、話し合い納得しながら進められることをおすすめいたします。
【皮膚科を初めて受診される飼主様へ】
皮膚科で初めてご来院いただく場合、問診・治療に関するカウンセリングに時間がかかるため、診察時間が長くなる可能性があります。
お時間にゆとりのある飼主様は、診療時間終了の1時間前(午前:11時、午後:18時)までの受付にご協力いただけますと幸いです。
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